ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

その人にしか描けない、絵の魅力  ちいさこべえ4巻

ちいさこべえ 4巻が発売されていたので、買って読んだ。

山本周五郎の原作小説をすでに読んでいたので、結末はすでに知っていたのだが、
茂次がりつにプロポーズする場面、結婚式のラストシーンまで楽しく読んだ。

白無垢姿のりつが女の子にニッコリとほほ笑むシーンがあって、
この一コマの絵を描くまでに、今まで4巻分の話が描かれてきたのだと思った。


以前に「あの物語のその後」という記事で触れたが、
ちいさこべえは、「お茶の間」の薫とソノコの後日談のような趣があると(自分自身では)思っていて、
お茶の間では描かれなかった求婚のプロポーズ、結婚式のお祝いまで描かれて良かったと思った。

このような思い入れを抱くのは、個人的事情によるもので、
お茶の間を読んだ20歳の頃は結婚どころか恋人もおらず、人との温もりに飢えていて、
ちいさこべえを読んだ最近は、結婚していて子供があり、茂次とりつを、少し前の自分たちに重ね合わせて見ていたからだろう。


原作の小説を読んでいて、いわばネタバレされた状態にあるのに興味深く読めるのは、
マンガには絵が付いていて、構図があって、カメラが回ってカットが切り替わっていく、演出の妙が楽しめるからだ。

望月ミネタロウのマンガは、セリフを喋らせると説明的になりすぎたり、教条的すぎたり生真面目になってしまう嫌いがあるが、
山本周五郎のセリフ回しに助けられつつ、持ち前の絵の才能が、ちいさこべえでは存分に発揮されていたと思う。


主人公の茂次は、ずっと髪の毛と髭で表情が隠されてきたのだが、
求婚の気持ちを打ち明ける場面で、ようやく瞳を覗かせ、結婚式の場面でフルフェイスが明らかになる。
引っ張って引っ張って、最後に素顔を明かしたのだが、
ちいさこべえには、茂次とりつ、ゆうこさんをはじめ、魅力的な表情を切り取った一コマが多くあり、実に充実したマンガだった。

望月先生の次回作には、茂次の親父さん、材木問屋さん、信金支店長のような下町の親父が主人公のマンガを描いてみてほしいと思う。



全くの付け足しのように、ジョジョのことに触れると、
ジョジョで魅力的な表情を切り取った一コマ、印象に残る絵を思い浮かべると、さまざまな場面が目に浮かぶ。

3部が中心になってしまうが、DIOポルナレフの前に現れるシーン、イギーの死に様。
承太郎に変身したオインゴもなぜかよく浮かぶ。(タバコを飲み込みながら「人間、死ぬ気になれば何でもできる!」のセリフが心に焼き付いている)

4部 仗助とジョセフがお互いを認め、ニコリとほほ笑みあうシーンも心に浮かぶ。


でも、上記のシーンをアニメにしたり、実写映画にしたり、
あるいは今の(ジョジョリオンの絵柄に変わった)荒木先生が同じシーンを描き直しても、もう同じ絵にはならない。

絵には、その人にしか描けない不思議な魅力があって、その時のその人にしか描けない不思議さがあって、
言葉に表せないが、でも確かに人を魅きつけ、生きる力さえ与えてくれる希望がこもっていると思う。