ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

ドクタースランプ→ドラゴンボール→COWA!へと続く、鳥山明作品の大団円

私事ですが、この春に自宅を購入することになった。
30歳で結婚して、40歳で住処を固めてと、10年ごとに人生の節目が訪れている気がする。
(50歳で行方不明、60歳で白骨化した遺体が発見される、という展開にならないよう気をつけたい)

そんな折、ドラゴンボール連載30周年の記念本「超史集」が発売され、
鳥山先生が「(ドラゴンボールは)いつのまにか放っておけないほど好きな作品になっているのかもしれませんね」というコメントを寄せている。
個人的には大変な驚きであり、じんわりと嬉しくなるコメントで、衝撃の大事件だった。(極個人的には、鳥山先生のコメントと、マイホーム購入の時期が一致した奇縁に嬉しさを感じている)

この記事では、鳥山明作品の読書メモ、個人的な関わりを記していきます。


 ***


私のマンガ読書歴は、ドクタースランプ/ドラゴンボールジョジョと続き、鳥山先生には大きな影響を受けた。

2005年 鳥山明デザインの「QVOLT」という電気自動車が発表されたとき、東京のショールームに駆け付け、買おうかどうか真剣に悩んだことがある。
タカラのセールスマンが、もう少し営業上手で、電気自動車のメリットと楽しさを上手く伝えていたらこの車を買っていたと思う。
(恥ずかしい話だが、20歳すぎにドラゴンボールを中古本で買いそろえ通読し、感激のあまり鳥山先生にファンレターを書いたこともあった)


鳥山明作品は、物心ついた頃から身のそばにあり、ドクタースランプのコミックスが人生の最初期に読んだマンガ本である。
キャラクターの表情がとても愛らしく、ニコニコ笑った笑顔のかわいらしさは、他にたとえようがない。
(大人になって読み直して気づいたが)千兵衛さんはよい男で、動物を守るため真剣に怒り、仕事と人生の楽しみを両立させてもいる。
みどりさんが千兵衛さんに惚れて結婚するエピソードは、わずか4~5ページほどで描かれていたのだが、みどりさんのアラレたちを眺める視線がとても優しく、強く印象に残っている。

私にとって、ドクタースランプは「心の原風景」であり、てらわずに言えば「生きる喜び」「世界の美しさ、楽しさ」を伝えてくれたマンガである。


次いで始まったドラゴンボールは、孫悟空の成長譚、少年が大人へと成長する冒険物語である。
ドラゴンボールは連載1話からジャンプで読んでいたが、平成元年が始まる頃 悟空が大人になり、天下一武道会で優勝しチチと結婚した。
この時点でドラゴンボールは一度完結し、サイヤ人編からは、同じキャラクターと舞台を使った別のマンガが始まったと思っている。

鳥山先生は、ドラゴンボール連載時「次回の続きをどうするかはあまり考えずに、読者といっしょに、作者自身もワクワクして描きつづける」執筆スタイルをとっていたという。
ストーリーが展開していくワクワク感は、(個人的に)レッドリボン軍との戦い→天下一武道会→ピッコロ大魔王との戦いが最高潮で、
マジュニアが現れたくらいからは、話を畳みにかかっているというか、同じ展開の繰り返しになり始めているのをどう収束させるか、マンネリの予感が現れ始めていた。

サイヤ人編からは、牧歌的だった雰囲気をガラリと変えて、宇宙規模の戦いで戦闘描写も激しくなっていったが、
ドクタースランプ以来の読者だった私にはあまり馴染めず、悟空がラディッツと相打ちになって死んだり、天津飯がナッパに腕を切り落とされたシーンで微妙な違和感がしたものだった。
ベジータフリーザとの戦いは緊迫感がすごく、カッコいいシーンの連続に興奮して読んでいたが、ドラゴンボールは一番に追いかけるマンガでは無くなっていった。
平成元年初頭 サイヤ人の戦いが始まった頃に、ジョジョは3部が始まっており、承太郎の登場から、ジョジョにのめり込んで読むようになっていった。


鳥山先生が「大全集」のインタビュー等で述べているが、
自分の描くマンガは娯楽であり商業作品であり、読者(小学生男子)の要望に応えてドラゴンボールを描き続けていったとのことである。

ハリウッド映画に例えると、悟空が登場しチチと結婚するまでが「ドラゴンボール」。
サイヤ人の設定が追加され、フリーザとの戦いで悟空が宇宙一になるまでが「ドラゴンボール バトルヒーローズ」。
前作が好評を博したので、人造人間たちとの戦いをあらたに描いた続編が「ドラゴンボール バトルヒーローズ2」、
さらにその後 ブウとのエピソードを描いたのが「ドラゴンボール バトルヒーローズ3」。

サイヤ人~ブウ編までの展開は、ストーリーにあまり連続性が無く、
一本の長編小説というよりは、バトルヒーローの戦いと活躍を描いた、3本のアクション映画を観たような、そんな感覚がある。


鳥山作品には大きく2つの魅力があって、
1つはドクタースランプに代表される、ほのぼのとしたかわいい世界観の、(超史集 鳥山先生いわく)「地味なバカバカしさ」の集約されたもの。
もう1つは、カンフーアクションとAKIRAの超能力描写を組み合わせたかのような、疾走感あふれるスリリングなアクションである。

ドラゴンボールは連載30周年の今も、世界的に大きな人気を獲得し続けているが、
アクション要素のカッコ良さが人気を博していて、「地味なバカバカしさ」要素のほうは人気が薄いように思われる。

ドラゴンボール完結後 COWA!、カジカ、サンドランド、ネコマジン、ジャコ 一連の短編作品が発表されたが、
いずれも「地味なバカバカしさ」に重きを置いたもので、激しいカンフーアクションの応酬は影を潜めている。
キャラクターの輪郭も丸っこく、背が縮んでしまったので、
サイヤ人のアクションバトルに魅かれた読者には、何とも刺激が薄く、つまらない凡作群ばかり量産するようになってしまったと映るだろうと思う。


ジャコの発売時 短編コミックスが重版されたのだが、鳥山先生が帯コメントを寄せていて、
「(COWA!は)だれがなんといおうと すべての作品の中でいちばん大好きなマンガであります」と述べている。

自分もCOWA!には思い入れがあり、懐かしさと静かな感動を覚えていたので、このコメントは嬉しかった。

COWA!は、ドラゴンボール完結後 絵本作品を描きたいと思っていた鳥山先生が、
(ジャンプ編集部の、短編作品を連載せよとの要望に応じ)短編コミックで、絵本的表現を試みた作品である。

3人の子供モンスターとはぐれ者の大男が、一緒に旅をして、人間とモンスターの交流を深めるストーリーである。
丸山マコは元相撲取りで、対戦相手を勢い余って殺してしまい、世間が嫌になってはぐれ者になり、オバケたちの住むこうもり岬にやってきたという。
マコの身の上話を聞き終わったパイフーは、「やっぱ人殺しじゃん」とポツリと言う。

これは強烈な皮肉で、

丸山マコの心情は、バトルヒーローとなった悟空たちのある種の真実を描いたものであり、
15年もの週刊連載を描きつづけて、「戦い」に疲れ果てた作者の真情でもある。

しかし、ここからがCOWA!の本編の始まりで、
マコとパイフーたちは、オバケ風邪から村の皆を救うため、一台の車に乗り込み旅に出発する。
ホームセンターのトンボの電飾を見つめるパイフーの純な視線、裏も表もなく明け透けでバカな子供たちの様子に、マコの心が少しずつほぐれていく。
魔女の住処を目指した冒険はやがて終局を迎え、パイフーは少しだけ成長し、マコと3人はたしかな友情を結ぶようになる。
村への帰路 マコが「おれたちは世界最強のチームだ」と宣言するシーンが印象深い。

ラストにひと悶着あって、子供モンスターの企みは破綻し、マコは騙されたような形にもなって、気まずく旅は終わってしまう。
そして最後、パイフーとホセたち、村の皆が心を合わせて、マコにひとつのプレゼントを贈るーー「ありがとう! マコリン!!」のメッセージを込めて。

とても感動的なシーンで、今 思い返すだけでも涙が出そうになってしまうのだが、
COWA!はとても良い作品で、戦いに疲れたはぐれ者が、いかにして自らの人生(幸せ、心の平穏、穏やかな生活)を取り戻すか その過程が描かれている。

鳥山明の心の叫びであり、ドクタースランプで描かれたペンギン村に、悟空やアラレが、「とりさ」自身がようやく帰ってこれた。
作品世界の大団円であり、鳥山明の創作作品はドクタースランプから始まって、ドラゴンボールの宇宙に拡がり、COWA!のオバケ岬に帰ってくるーー私は、そのように捉えている。


 ***


ーードラゴンボールは文字通りのモンスターコンテンツで、30年間 人気が衰えず、
最近では、鳥山明以外の人間が作者となり、ドラゴンボールスーパーの漫画・アニメを連載し続けている。

スターウォーズの新作シリーズが公開され、ジョージルーカスからディズニーへ、作品が他人の手に渡ったことを知った。
ドラゴンボールも、鳥山先生が死んだ後も何らかの形で他人に引継がれ、20年後50年後も新作が描かれ続けているのかもしれない。

しかし、マンガの作家性を求める自分としては、鳥山明のマンガ作品は、(当たり前だが)当人が考え描いたものでなければ意味が無く、
鳥山先生の創作世界は、大きくは、ドラゴンボール完結、COWA!とサンドランドを描いた辺りで老境に到り、その後 大きな新作・新展開が産み出されることはないだろうと思う。

ドラゴンボールは、アニメ・ゲームで新展開が続いているが、
20年後50年後まで続けていくつもりであれば、孫悟空に替わるあらたな主人公を産み出す必要があるだろう。
悟空が主人公の物語としては、マジュニアが魔族の敵ではなくライバルとなった天下一武道会、ブウをウーブ(初心)として弟子に迎えたラストで展開が極まっているからである。

ドラゴンボールスーパー アニメ版は、作画の出来が悪いということで(?)鳥山先生にも不評をかこっているが、
第6宇宙との争いに入ってからの展開はけっこう楽しみで、アニメの新編スタートを楽しみに待っている。
ストーリーの最後は、展開的にもテーマ的にも、悟空がウーブと旅立つ、冒険の初心への回帰が約束されているのだろう。

かつて、1980年代に発売されたドラゴンボールのムック本などで、
鳥山先生は「亀仙人のような、トボけた爺さんになりたい」「100歳まで生きるぞ!」とつぶやいていた。

ドラゴンクエストドラゴンボールの新作デザインはそこそこにして、鳥山先生には余生を充分に楽しんでいただきたい。
サンドランド ラオの坦懐を抱えつつ、亀仙人のように闊達自在な、楽しい人生を送ってほしいものだと思う。
鳥山先生には、今までたくさんのマンガを読ませていただきありがとうございました、と伝えたい。