ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

1890年 スティール・ボール・ラン 記者会見

最近、仕事と趣味を兼ねて、にわかに世界史を勉強し出している。

宮崎正勝「スーパービジュアル版 早わかり世界史」という本が、最初に読んで面白かった本で、
暗記事項の詰め込みだと思い込んでいた世界史から、「理解して、歴史の動きを捉える」面白さに目覚めさせてくれた。

「マクニール世界史講義」(The Global Condition)という文庫本があり、
ヨーロッパ世界がいかにして拡大したか、フロンティアラインの発展が述べられていて面白い。

日本(国家)の行く末は勿論、官僚と市民の力関係、大企業とベンチャー企業の競争関係なども思い起こさせ、
さまざまな事象に当てはめ、物事の骨組を類推することができ、
「歴史をいかに活かすことができるか」は、これからの未来を生きるための、大切な勉強になると思う。


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マクニール世界史講義 グレートフロンティアという論文で、
1890年 アメリカ国勢調査局が「フロンティアは消滅した」と発表した、と述べられている。

アメリカ大陸の西海岸まで、開拓の波が行き渡ったことを述べているのだが、
ジョジョにおける1890年とは、まさに、スティール・ボール・ランレースが開催された年である。

個人的な推測であるが、これは偶然の一致では無く、
荒木先生が「近代の始まり」「ジョジョの新たなシリーズの幕開け」を描くにあたり、意図を持って、1890年のアメリカを舞台に選んだのではないかと思っている。


アメリカの東海岸から始まった開拓の波が、西海岸にたどり着き、開拓の余地が無くなったとされた、国勢調査局の宣言。
ならば、今度は西海岸から東海岸へ逆ルートの旅を行い、「自分たちの開拓地」を見つけていこうとするのが、
スティール・ボール・ランレースのコンセプトだったのではないだろうか。

スティール・ボール・ランレースは、西→東にアメリカ大陸を横断する試みであり、
これは、(6部の)未来から19世紀への巻き戻しに一致する。

レースのゴールポイントには聖人(キリスト)の遺体があり、
すべての出発点、原点に立ち返り、自然と戦い、道を切り開く主人公たちを描いたのが、SBRの物語であったと思う。


ジョジョ1部の主人公 ジョナサン・ジョースターは、1868年生まれである。

日本では明治維新のあった年、明治元年で、荒木先生がどこまで意図したのかは分からないが、
「日本の、近代化の始まりの年」に、ジョジョの起点が置かれたことは興味深い。

ジョジョのこれまでのシリーズは、19世紀末~21世紀初頭までが物語の舞台に選ばれ、
未来の果ての物語や、古代や中世の秘密の歴史などが、主人公の舞台に選ばれたことは無い。

これは、荒木先生が「リアリティーあるサスペンス」を作品の基調とするために、作劇上 あまり日常(現代)とかけ離れた時代は描けないとインタビューで述べているし、
また、荒木先生の問題意識が「現代人(近代人)の在りかた」に向いているため、自ずと、近代に生きる人間たちが、描かれる対象として選ばれているのではないかと思う。


いわゆる名セリフ・名言の類をマンガに求めるのは、あまり個人的に好きではないのだが、
ジョジョを読んで燃えたメッセージの一つに、スティール・ボール・ラン 冒頭の、スティール氏の記者会見がある。

SBRレースが歴史上初の試みであり、アイデンティティーに開拓の精神があること。
そして、真の失敗とは興業が失敗することではなく、開拓の心を忘れ、困難に挑戦することに無縁のところにいる者たちを指すのだ、と。

このレースに失敗なんか存在しない、存在するのは「冒険者」だけだ!と叫んで、スティール氏の会見は締めくくられる。

冒険者の精神とは、まさに「ジョジョの奇妙な冒険」の物語の根幹であり、
近代のはじまりに立ち返った7部の冒頭で、スティール氏の口から、ジョジョのテーマの根幹が、改めて提示されたのだと思う。

SBRレースが始まった後は、スティール氏はほとんど活躍の機会が無く、
マジェントマジェントに銃撃された後は(連載期間で)2年以上も重傷のまま寝込み続けることになった。

しかし、スティール氏が列車のルーシーを連れ出しジャイロに託した時点から反撃の気運が盛り上がりを見せ始め、
レースの最後 無限の回転に崩れ落ち去ろうとしていたジョニィを助けたのは、かつて騎兵隊に加わった馬乗りのスティール氏であった。
ルーシーの活躍無くして、大統領の陰謀を食い止めることは出来なかったが、これもスティール氏という夫の存在があってこそで、
スティール氏こそは、7部の物語の陰の主役、物語の舞台と進行を裏で支える、基盤となる人物だったのだと思う。


サンドマンポコロコ、ホットパンツ、ジャイロの父も魅力的なキャラクターで、
可能であれば、彼らにスポットライトを当てた外伝話・短編を読んでみたい。

近年 岸部露伴を語り手にした短編が断続的に発表されているが、露伴だけでなく、
SBRのキャラクターのスピンアウト話、その他のキャラクターの外伝話も、できれば読んでみたい。

8部 ジョジョリオンが完結した後、荒木先生の気が変わって、そいういう外伝話・短編連作が発表されるようになったら嬉しい。)