ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

「人生をいじくり回してはいけない」 水木しげるの背後霊と、ジョジョのスタンド使いたち

水木しげる先生のエッセイ「人生をいじくり回してはいけない」を読んだ。

税務署や世間の冷たい仕打ちに心が折れて、クジけていたときに手にとったのだが、
南伸坊デザインのゆるい表紙につられて手にとった、水木さんのエッセイはとても面白く興味深いものだった。

南伸坊さんには、昔 京都のトイレで隣になったことがあり、南さんに「スミマセン」と会釈されたことがあった。
そのときの私は若くて余裕が無く、他人を寄せ付けないような怖い顔をしていたのだろう。申し訳ないことだったと思う)


本書は、水木しげるのオールタイムエッセイ・インタビュー・放談から、人生にまつわるモノを集めた選集である。
太平洋戦争に従軍した話、ラバウル土人との交流、紙芝居描きからマンガ家を目指した戦後の話、境港の水木家のルーツの話などが出てくる。
水木しげるのお父さんとお母さんの話、紙芝居を描いていたときの話は初めて読み、面白かった。

「蝶になった少女」の章、中国人女性と土人の少女の話が切なく美しい。
死んで生まれ変り蝶になった少女というと、ジョリーンのラストを連想するところもある。


もちろん、同書のメインテーマの一つは「妖怪」で、
妖怪を見るのではなく、いかにして「感じる」のかなど、面白いエッセイが並んでいる。

不勉強のため初めて知ったが、江戸時代に鳥山石燕という妖怪を描いた画家があり、
「鬼太郎」に登場する妖怪たちは、石燕の「百鬼夜行」、柳田國男の「妖怪談義」をベースに発想、デザインされていったとのことである。

私自身の主観的な、何となくの連想であるが、
水木しげるの妖怪たちは、妖怪ウォッチの現代の妖怪たちの基となっていることはもちろん、ウルトラ怪獣鳥山明のモンスターたちにも繋がり、
そして、(後述しますが)水木しげるの背後霊は、ジョジョのスタンドにも繋がっているような気がする。

水木さんの言う「あの世」、資本主義的現実世界から離れたもう一つの世界が、
夢や空想の幻ではなく、どこかで繋がり、大きな実在となって存在している気がする。
ーーこれは、水木さんのエッセイを読んだばかりで夢見心地になっているというだけではなく、半分くらいは、本当にそのようなモノがある気がするし、あって欲しい。そう思う。


(本書には、その他にも、水木しげるが妖怪の風景画を書くために、日本の風景写真を撮りためて自家製の辞書を作った話。
鬼太郎やネズミ男に実在のモデルがいたり、目玉おやじが連載マンガの苦し紛れから生まれたアイデアだったりと、
ジョジョにも通底する、マンガ製作の面白い話が沢山でてきます。
ちくまの文庫本で、千円しない値段で買えるのでお得だと思います)


 ***


ーーすこし順番が前後してしまったのですが、
水木しげるの「人生をいじくり回してはいけない」に、「予期せぬ出来事」「死について」というエッセイがあります。

水木さんが50~60代を迎えたころ、(出身地である)出雲のご先祖さまの夢を見るようになり、
生命の危機を乗り越えたり、成功のチャンスを掴んだり、ご先祖さまが背後霊となって救ってくれていたのではないか。
そして、出雲の祖霊さまたちは妖怪とも重なり、ラバウル土人たちと似たノンビリ貧しく、幸福な暮らしぶりをしていたのではないか という一節があります。

妖怪マンガで人並み以上の成功を手に入れた後、人生を落ち着かせた熟年の水木先生が、夢の中で得た着想です。


面白いなと思うのは、荒木先生がジョジョの「スタンド」を考え付いたとき、
作者は30歳に差し掛かるくらいの年齢で、ヒットを掴むべく、いちばん上り調子であった頃です。

スタンドは自らの「意思の力」で現れるもので、側に立ち、戦うものです。

連載が進み、4部の終盤から運命論が表に出てくるようになり、
作者が40歳を越えた頃、6部以降の連載では宗教論・宇宙論も加わって、
物語の中に、自分の力を越えるもの、自分自身ではどうしようもないものが現れ、主人公たちがどう折り合いをつけるか? そんな展開が描かれるようになってきました。

7部以降の連載では、聖なる遺体の奇跡、呪いの病とロカカカの実が登場。
露伴の読みきりでも、マナーの戦いを挑む山の神が敵として現れるなど、物語が不可知の領域に進みつつあります。

少年ジャンプ連載の頃は、自分の意思でスタンドを発現させ、知恵と勇気、仲間との友情で敵を打ち倒してきたものが、
作者が40~50歳を越えるにしたがって、自分自身よりも大きなもの、どうしようもない運命論の中であがく人間の戦い、
運命を切り開きつつ運命に準ずる、そんな人間の有り姿を描くことに、着眼点が移り変わってきました。


水木しげるさんが60歳になった頃にたどりついた、自身の人生を見守ってきてくれた守護霊(背後霊)たち。

そして、荒木先生が今のジョジョリオンから9部にかけて描いていくだろうスタンド使いたちが、どんな人生の軌跡を描いていくのか。
楽しみに読んでいきたいと思っています。