ウルトラジャンプ2020年8月号 透龍君の出生が明かされ、人間(ホモサピエンス)と岩人間 炭素生物とケイ素生物の同異が解説される回を読んだ。
とても面白く刺激的な内容の話で、(残念ながら、先月くらいのブログ記事で書いた)透龍はただの医学生で院長が黒幕 という、私の予想は外れてしまった。
3~4年前くらいから、ポツポツ ジョジョリオンの展開予想をブログに書いているものの、
ストーリーのアウトライン、テーマの掘り下げみたいなところはともかく、毎回毎回の展開予想、エピソードやキャラの積み重ねみたいなところは、まったく、予想が当たらない。
「予想は裏切り、期待は裏切らない」という言葉があるが、そういうどんでん返しの連続が、おもしろい連載マンガの条件なのだろう。
先月号 第98話の感想に戻るが、院長が「長旅をしている者が最も事故に遭いやすいのは帰宅直前だ」とつぶやくシーンがある。
身につまされる箴言だが、「家に帰るまでが遠足です」と同じく、リスク管理、安全管理の要諦である。
院長のセリフは、SBR ジャイロとジョニィがアメリカ大陸横断の旅を振り返る一幕をほうふつとさせるものがあるし、
先月号くらいから、豆ずくさんと定助のやりとりでも、
天と地の間を見渡す壮大な感じが出てきたり、主人公が回転するしゃぼん玉を武器とし、友人どうしの信頼を武器に戦うことを発言したりと、
7部から8部へと引き続く、物語のクライマックス感が出てきている。
定助の回転するしゃぼん玉は、先端の物理学 超ひも理論あたりをエッセンスに持ってくるのではないか と、以前に予想していた。
「回転」というキーワードを、7部から引継いで使いたかったための引用で、この先あまり掘り下げることは無いかもしれない。
しかし、今月号までの描写だと、主人公サイドが院長と透龍に打ち勝つための手が見えないので、形勢逆転の秘策として、回転するしゃぼん玉の、何らかのパワーアップ、ものすごいバージョンアップが出てくるかもしれない。
私は物理学に疎く、雑誌のニュートンやWikipediaのかじり読みしたくらいしか分からないのだが、無知蒙昧を覚悟で言うと、
「シュレーディンガーのネコ」、状態の重ね合わせ。
定助はそこに居るかもしれないし、そこに居ないかもしれない。
透龍と院長も2人の人間が同時に重なっていて、そこに居るかもしれないし、そこに居ないかもしれない。同時に居るようであり、かつ、どこにも居ない。
そのような、日常素朴の常識では測りづらい物理現象、素粒子物理学の最先端で測り明らかにされつつあるような現象をもって、
透龍と院長の謎を明かし、2人の合体人間であるような定助の特性も活かされ、ロカカカによる生命融合の現象も解きほぐされるような、なにかものすごい力技をやってくるのではないか。
「岩人間は社会生活を持たない。ハチミツが好き」と数行の記述から、今月号の冒頭にあったような透龍の出生話まで、お話を膨らませることができるのだから、
荒木先生であれば、何かとんでもない、デタラメでもありながら面白い、そんな展開を持ってくるのではないだろうか。
また先日、ひょんなきっかけからダーウィン 「種の起源」(光文社古典新訳文庫 上下巻)を買った。
パウルクレーっぽい表紙絵につられて選んだら、挿画は望月某という日本人イラストレーターによるもので、エッ!と思ったが、これも分化の歴史をあらわす一つなのかもしれない。
(長大な本文を読み通すのは大変なので、まずは)訳者解説を読んでみたところ、ダーウィンが述べた種の起源、のちに続く進化生物学の発展 これは丸っきり、今月号のジョジョリオンで描かれていた内容だな… と頭に浮かんだ。
荒木先生が、ダーウィンの種の起源に始まる生物学の論争、理論の発展を知っていて、これらを元ネタに岩人間と主人公たちの戦いを描いている、といったほうが正確で、
いわば、8部ジョジョリオンの元ネタの一つは、種の起源である というところである。
種の起源 同文庫本のしおりには、(私のような生物学に疎い)一般読者のために、用語解説の書かれたしおりが付いている。
引用すると、下記のとおり。
生存闘争 = 生物が生存可能な数以上で増えるために起こる存続をめぐる闘い
自然淘汰 = 個体における有利な変異を保存し不利な変異を排除する、自然による選抜の過程
創造説 = すべての生物は神が個別に創造したものだという説
交雑と雑種 = 遺伝的なタイプの異なる個体間での受精や受粉、すなわち交配を交雑という。またそれによってできる個体が雑種
雑種の不稔性 = 交雑によって雑種ができない場合と、雑種はできるがその雑種に生殖能力がない場合がある
ーーいかかがでしょうか?
岩人間とロカカカの登場、誇り高い農民である豆ずくさんの哲学・社会観など、上記 種の起源の用語集からビビビッと来るものがあって、
「普遍的で大きな物語」を荒木先生が今作で描こうとしているのだな ということが伝わります。
これに、犬神家の一族~近年の貞子、犬鳴村なんかに通じるジャパニーズホラー、近代日本の個人と家族を巡る生きかたの問題をからめ合わせれば、
ジョジョシリーズ8部 ジョジョリオンの基本設定、材料のレシピが出来上がり というところではないでしょうか。
今月号の前半で、わずか3~4ページの描写ながら、石仮面とディオ~スタンド、弓と矢~悪魔の手の平、杜王町の地面。
ルーシーの若妻時代とその後、ジャイロとジョニィ、エルメェスとエンヤ婆の再登場 と、往年のファンに懐かしい一幕がありました。
これらの描写は、単なる懐古、ファンサービスではなく、
今作 ジョジョリオンで描かれつつある展開は、1部~3部、1部~7部までとつながった一連の展開、まさにジョジョシリーズの最新の展開。
番外編でも他と途絶した物語でもなく、30年に渡って積み上げてきたシリーズの、現時点の最新のクライマックスですよ という、作者からのインフォメーションだろう。
であれば、先月号くらいからとみに描画のテンションがあがり、場面場面の絵が丁寧で、力感が高まってきたのも頷けるというものである。
種の起源 交雑と雑種、雑種の不稔性の概念は、モロに、岩人間 透龍の誕生を連想させる。
作中では、理那(ジョニィの妻)が折り紙のように、岩のような皮膚になった描写が描かれたのが初めだったが、東方家に遥か昔から受け継がれてきたらしい石化の呪い病。
これも、はるか昔の東方家のご先祖が、どこかで岩人間と交わったこと、交わらないはずの交雑、雑種が産まれたことが、後々の禍を呼び込むことになったのだろう。
ジョジョ 1巻のはしがきで、作者は、「人間」と「人間以外のもの」の戦いを通じて生命賛歌を描きたい と、シリーズの抱負を述べている。
この文章自体は、コミックス発売に際して急かされた半ばヤッツケ?の文章である と近年のインタビューで作者は述べていたが、
これは荒木先生のテレ隠しであり、
文章そのものが書き出された当初 必ずしも沈思黙考して書かれたものでないにせよ、
1部、2部…7部、8部 30年以上に渡りシリーズを書き連ねる中で、繰り返し頭に浮かび、考え抜かれたアイデアの筈である。
ジョジョシリーズは、石仮面を被り吸血鬼(超生物)となったディオとジョナサンの戦いに始まる、人間と、人間ではないものとの戦いである。
2つの異なる種の戦いを通じて、人間とは何か 人間というものの姿を描き出し、生命賛歌を歌う。
このコンセプトを、60歳を迎えた作者が、いまの杜王町で描こうとしている。
かつて、4部連載開始当初にあったともいう、「次の1000年を支配する何かが、杜王町の地下に眠っている」というアイデアを、
7部 悪魔の手のひら、8部 (聖なる遺体のご加護で力を持ったのだろう、)杜王町の地面で、数十年の間隙を挟み、描き出そうとしている。
作家の仕事というのは、10年~30年、長いスパンで描かれるものでもある と改めて思う。
もちろん、ここで書き連ねたようなストーリーやテーマの深読みは、私個人の憶測によるところも大きいし、
ストーリーやテーマのもっともらしいこじつけをすれば、その話が面白くなる という訳でもない。
キャラクターやバトル、描写や構図、場面展開のカッコ良さというものこそがマンガの要諦で、
ストーリーやテーマの深みは、それらの後ろに隠れた、大きな、目に見えづらい構成要素だろう。
アリの目とタカの目 目の前に見える現実と大所高所の全体像 なにごとにも2つの視点(構成要素)があると思うが、
そんなところで、ジョジョリオン、荒木マンガ、いろんなエンターテインメントを噛み砕き味わえると、複眼的でけっこう面白いのではないか と思う。
(追記)
2020年8月 お盆明けに発売された、ウルトラジャンプ最新号。ジョジョリオンの連載100回目が掲載された号を読んだ。
豆ずくさんがシャボン玉にやられて、死にそうな雰囲気が漂ってきたが、最後に見せたのが、ひもの回転。
超ひも理論の何だかスゴイ展開で、院長に反撃することは間違いなさそう。
私個人の予想では、豆ずくさん(の遺体?)をヒモにして、連携技で院長を攻撃するのではないかな? と思う。どうなるだろうか。