ジョジョとキリスト教の関わりに主眼を置きつつ、7部のストーリーとテーマを総括しようとする記事です。
ジョジョ展みたいなシリーズ歴代主人公集合企画があるとき、
ジョナサンがシーザー風バンダナ、ジョセフが飛行帽、7部からはジョニィが登場するのが恒例になった。
ジョナサンの後付けデザインも気になるが、それ以上に私がしっくり来ないのが、7部主人公としてジョニィのみがフィーチャーされジャイロの姿が無いことだ。
個人的な感覚では7部を引っ張った主人公はジャイロ、ジャイロとジョニィのコンビであり、
ジャイロツェペリ=荒野をひとり馬で行く、謎の男 のイメージが無ければ、SBR以降の新世界が描かれることも無かったかもしれない。
1部映画が公開された頃、ツェペリ家の2人が馬に乗り、ジョースター7人の馬車を導き進むような大型ポスターが描かれた。
「ツェペリさんがカラーで描かれるのは初めてで、ツェペリさんもジャイロのおかげで復活できました!」との作者コメントが付いていたが、
すこし大げさに言えば、ジャイロのイメージが産まれて、これを核に、SBRレースや19世紀末新世界が産まれたのを示唆しているのではないか と思う。
ジャイロツェペリは、ネアポリス王国出身の死刑執行人で、
ネアポリス王国のモデルはヴァチカン市国、実在した中世フランスの死刑執行人をモデルに、ジャイロの出自を設定している。
ヴァチカンはカトリックの総本山であり、死刑執行人は王に仕える忠実な家臣。
そして、ジャイロが「謎の男」であるのは複雑な二面性を持っているためで、
彼は、祖国、父親と家業からの「独立」を志向しながら、
同時に、一族の誇りと鉄球の技術を受け継ぎ、キリスト教や祖国への忠実さを失った訳でも無い。
ただのヤンキーや跳ねっ返りではなく、自らの足元を踏まえて理解しており、
いわば「運命」を受け入れつつそれに抗おうとする現代的苦悩の持ち主で、
「納得」を求めて旅をしていた。
ヨーロッパからアメリカへ、大陸横断レースに参加したジャイロは、
象徴的な意味で、旧来秩序からの脱出、新世界への旅を象徴するキャラクターだった。
ジャイロとリンゴォの戦いは、ジャイロの心の叫び、魂の叫びがほとばしったとても熱い戦いだった。
ジャイロと対照的なのが、(リンゴォ戦に共演した)ジョニィとホットパンツで、
ジャイロから「意志の力」を諭され、馬に乗る意志と鉄球の技術に目覚めていったジョニィは、最後は自らの足で歩きだすまでに成長する。
ジョニィは聖人の遺体を求めてはいたものの、自分のため、現世的なご利益を求めてすがったもので、信仰心は無かった。
ホットパンツはヴァチカンからの使者で、修道女だった。
男装の麗人として登場したホットパンツは、マイクOとの戦いまで相当強かったのだが、
シビルウォーの館で修道女の正体がバラされ、大統領との戦いで「罪を清めるため、神さまに全てを捧げます」と告白した後 あっけなく死んでしまう。
ジャイロジョニィとの違いは、「自らの意志」を持っていたかどうかで、そこが死生の分かれ目だったのではないか? と思う。
6部→7部の展開を俯瞰すると、
6部を通じて、既存のキリスト教文化、西洋文化、複雑に発展しすぎた作品世界からの脱出を試み、
7部にて、世界の再生、ルネッサンス(再興)、シンプルであらたな空白地点から物語を語り直していこうとの試みを行っている。
SBRレース 1stステージのゴールは教会。
そして、アメリカ大陸を西から東に横断して、最後にたどり着くのはニューヨークの三位一体教会、納骨堂で完結する。
ウルトラジャンプに連載が移籍した頃、何かのインタビューで作者が、SBRは「巡礼」の旅、と答えていた。
(読者の反応は気にせず、描きたいことを描いていきます、と意気軒昂なコメントも載っていた)
5部ゲーム本インタビューなどによると、3~6部の物語は3年単位で描かれていて、
1年め キャラクターの登場 → 2年め 物語を発展し、膨らませる → 3年め 終演に向かう
リズム・サイクルだったらしい。
SBRでも同く、1st~3rdステージくらいまでに主要人物の登場を済ませた後、
3rdステージの終盤、主人公たちの瞳に「光」が描かれるように変わってからは特に面白く、
3rd~7thステージまで物語中盤の旅は、
人間の生きるべき「道」を求めて、それぞれ毛色の違った、示唆的なテーマを盛り込んだエピソードが続いていったと思う。
主人公2人は、聖人の遺体、宗教的奇跡への距離感が異なっていた。
サンドマンの「裏切り」は、フーゴのときに描けなかった、キリスト教のユダの裏切りを、青年誌移籍後に実現させたものだろう。
ウェカピポとジャイロ父のエピソード、シビルウォーの話、シュガーマウンテンの泉で物々交換する話なども、キリスト教的な含蓄を多く含んでいると思う。
レース終盤 遺体を総取りし、敵役として登場してきたヴァレンタイン大統領。
大統領の髪型(ウィッグのような、くるくるカール)は、アメリカ合衆国初代大統領 ワシントンを模していると思われる。
SBRの時代はアメリカ建国の100年後であり、ウィッグを着ける風習はすでに無くなっていたが、
ヨーロッパからのキリスト教文化を引継ぐ移民、またワシントン以来「開国、独立」の開拓者精神を表す象徴として、
大統領一派は古風な、くるくるカールの髪型をしていたのだろう。
大統領の野望は、アメリカ大陸に散らばった聖人の遺体を集め、宇宙の法則、神の奇跡とご加護を丸ごとわが身に引き寄せようという壮大なものだった。
スタンド能力のスケールもさることながら、胆力があり、演説にも長け、「切れ味鋭いけどあたたかい」人物の魅力は、他に無いものがある。
ヴァレンタイン大統領はとても強く、
ジャイロとジョニィ、ルーシーとスティール氏、ディエゴとホットパンツ レースの登場人物が束になってかかって、ようやく遺体争奪戦が終わった。
遺体は結局のところ誰のものにもならず、人間の思惑、善悪や人智を超えた存在だった。
最後に納骨したであろうルーシーに光が差し込んだのは、
聖人からの思いやりというよりは、(作中 随一の過酷な経験をさせた)作者からのフォローだったかも と思う。
物語のラスト ジョニィは親友の「遺体」を持って、大西洋を反対に渡り、ネアポリス王国を目指す。
故郷を飛び出したジャイロを故郷に連れて帰る旅で、作中 あれほど執着した聖人の遺体ではなく、親友の遺体を持って、鉄球を形見に祖国へ帰る。
ジョニィのモノローグで、この物語は「祈り」と「再生」の旅であった と語られる。
これは作者自身の独白でもあり、
物語世界の再生を目指して、作者自身のあらたな祈りを求めて、スティール・ボール・ランの旅は、巡礼と開拓の旅は描かれていったのだと思う。