ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

ゆでたまごと荒木飛呂彦 2人の作家の才能を比較する

キン肉マン 66巻の全巻セットを買ってしまい、少しずつ読んでいる。
9巻、10巻 2回目の超人オリンピックが終わって、悪魔超人との戦いが始まるあたりまでを読んだ。
10巻 各話の扉に、読者投稿の詩がいくつか載っていて、キン肉マンのやさしさ、強さを称える詩がつづられている。
強さの裏にあるのがやさしさ、ドジで間抜けなスーパーヒーロー。
私はテレビアニメをあまり見なかったが、キン肉マンの主題歌はよく覚えていて、読者投稿の詩のような、熱い歌詞だった。

キャメルクラッチやパロスペシャル、当時 プロレスの技を子ども同士でかけあって、ムチャをしすぎることも多かったが、
キン肉マンの内容はそれだけではなく、男の戦いや生きざま、大阪の人っぽいユーモア・ギャグ、読者投稿を活かす双方向の作品づくりと、
サービス精神、チャレンジ精神、スポーツ選手のような疾走ぶりが、力いっぱいに描かれている。
これはたしかに面白い。

キン肉マンジョジョ ゆでたまご荒木飛呂彦は、同い年生まれのマンガ家で、ともに少年ジャンプでしのぎをけずった人気マンガ家である。

キン肉マン ゆでたまご先生の個性は、何よりもまず、ふたりで描いてるコンビのマンガ家 というところにあると思う。
キン肉マンのドジで間抜けなヒーローぶり、
自分自身ではすぐにへたれるが、ラーメンマンテリーマンミートくん、怪獣に襲われる地球人ーーすなわち「他人」のためなら傷つくことをいとわず戦う姿。
これは、ゆでたまご先生が二人で一人のマンガ家であり、(プライベートは知らないが)友人同士が協同して描くマンガだからこそ、すんなり出てくるキャラクター、ストーリーだと思う。

荒木先生はホラー映画やサスペンス映画が好きで、恐怖や不安に襲われるとき、人は、基本的に孤独である。
そして、孤独に置かれた主人公は、他人の助けや超常的な奇跡に助けられるのではなく、自分自身の意思と力で、状況を乗り越えなければならない。
バオー来訪者であったり、ジョナサン以降のジョジョシリーズであったり、荒木先生の描くマンガは、基本的に、主人公がひとりで戦い、自身の力で苦境を乗り越える。
それは、荒木先生が、(プライベートの交友関係はいざ知らず、)ひとりでマンガを描いている作家だからだと思う。

ゆでたまご先生と荒木先生 ふたりの作風の違いは、そのまま、ヒト、人間の生活のありようと重なる。

ジョジョリオンの定助は、吉良とジョセフミ、2人の対照的な産まれの人間が1つとなり、あたらしく産まれた姿である。
これは深読みかもしれないが、人間というのは、父親と母親 2人の異なる人間が交わり、1つとなってあたらしく子どもが産まれてくる。
定助が2人の人間が融合して産まれて、しかも生前の記憶を失っているというのは、人間の赤ちゃんが、産まれる前のことを覚えておらず、いつのまにか知らない世界に産まれ出てきたことと、重ね合わせているのかもしれない。

当たり前だが、どんな人間も、この世に産まれてきた瞬間から、ひとりぼっちではいられない。
よしにつけあしきにつけ、産まれたときから、人間は他人に囲まれ、何がしかの社会・環境下において育っていく。

ジョジョリオンの定助は、東日本大震災後の日本に産まれた「これから先の未来を生きる日本人」であり、
現実の社会、日本の世の中をどうやって生きていくのか? というところが、物語で描かれる、「呪いを解く方法」、ストーリーの向かうべきエンドになっているだろう と思う。

ゆでたまごであれば、「それは友情だよ!!」とひとことで言い放ってしまうのかもしれないが、
荒木飛呂彦の描く物語では、なかなか簡単に、すんなり真情をぶつけあって、お互いに和解する、という展開にならない。

往年のジャンプ少年マンガのノリでいけば、定助と常敏が戦った後 仲間になり、さらに強い敵を求めてパプアニューギニア(スーパーロカカカの原産地)を転戦したり、これまでの主人公たちが出てきて最後に共闘したりする。
ジョジョのシリーズは、基本、失われたものは元には戻らない、死んだ人は生き返らない という価値観を定めて、旧世界から新世界への作り直しも実行している。

ゆでたまご先生と荒木先生 どちらが優れている、と評点をつけて争うものではなく、どちらかにマンガ家新人大賞を与えて優勝劣敗を定めねばならぬ、というものではない。
激しい週刊誌の生存競争を生き残ったという意味で、お二人はまぎれもなく天才であり、どちらの作家も、それぞれの世界観を発揮し、作品世界を構築した、ふたりともに称えられるべき英雄である。

キン肉真弓と委員長の昔懐かしいプロレスが、「近代プロレス」を望むモダンなファンからこきおろされるギャグがあったが、読者(観客)の視点は厳しい。
お二方とも、まだ引退は先のことのようであるが、キン肉マンジョジョ、現行作を描き上げてほしいものだ と切に願う。