ジョジョ読者のブログ

ジョジョの奇妙な冒険の感想、批評、考察を書いています。

宮崎駿監督の遺作 「君たちはどう生きるか」

かつてスティールボールラン 夜の雨の死闘で、ブラックモアはこんなことを言った。
「人には使命がある…肉体的な小さな命なぞを超越した、大いなる使命が!」

宮崎駿さんの使命は「きれいなもの」「ふしぎなもの」「動くもの」を描くこと。
以前 イバラード井上直久氏とのインタビューで、星が生まれて跳ね回る、そんなふしぎできれいなシーン、きれいな動きをアニメートしてみたい と、若い時から考え、取り組み続けている と話していたことがあった。

ーー宮崎駿監督の「遺作」といえる、「君たちはどう生きるか」は、そんな宮崎監督の使命、生涯の集大成、宮崎駿さんはどう生きてきたか を思い起こさせる、とても熱い映画だった。

 

ひとことでいえば、この映画は、少年版の「千と千尋の神隠し」、あるいは千と千尋の20年後の続編である。

ストーリー、展開は王道。

少年の心、成長。

生と死、火と水。

夢オチ。少年の見た夢

リアルとファンタジー

人はなぜ夢を見るのか。起きて見る「夢」


千尋、眞人。
病床から起き上がり、水差しの水をのみ、クッと、画面左を見据える。 眞人の力強い横顔は、神隠しから帰還した千尋とかさなる、「未来」を見据えたまなざしだった。

 


映画の描写は速く、過剰な説明をせず、夢と夢をつなぐようにどんどん進む。
こまかな描写に謎、違和感が生まれると、次のシーンか次の次のシーン、(映画を観てる時間で)2~3分以内に回収されるので、スジが分かりにくい、分からなくなる ということは無い。

しいていえば、主人公が大叔父と面会した後、いきなり、インコに捕まって捉えられているのが、漫画太郎的なギャグに感じ、はじめ戸惑った。
(大叔父から積み木を託された後、積み木の一つをつかって描いたのが、インコ軍団と戦う眞人の物語。少年漫画的なヒーローものになりそうでならない、ショボい結末になったのが、宮崎駿の意地悪さだろう)

宮崎駿は、マンガや映画をつくるとき、さいしょの一コマをまず描いて、次のコマを描いて、シークエンスを書きつらねていきながら、描きながら、終りを考えていくのだ という。
この映画は、まさにそんなつくりかたをしている。
いわゆる起承転結、ハリウッド的なエンタメ映画のつくりかたは踏襲していないので、テンプレートから外れているという意味で、たしかに分かりにくい。
3才~8才くらいの幼児が話す(大人からみれば)脈絡のないつくりばなし、眠っているときに見る、脈絡のないふしぎな夢。そんなものを思い起こしていただければ、ストーリーの流れかたに納得いただけるのではないか と思う。

 


宮崎駿のサービス精神によるものか、映画の節々でジブリっぽい動き、飛びかた、アクション、定番のキャラクター描写が出てくる。
この描写を新規で見るのはこれで最後か、と思うと、ちょっと感慨深いものがあった。

映画を観ていて、泣けたシーンが3つほどあった。
・眞人が、母から託された「君たちはどう生きるか」を読むシーン
・わらわらが浮き上がり、夜の空に浮き上がって、飛び立っていくシーン
・ジャムトーストを(想像の中の)母がつくり、眞人がほおばるシーン

 

大叔父さんと面会、積み木で世界は一日くらいは持つだろう… のシーンくらいからは、作者のメッセージが強く出てきて、映画を畳みにかかった。
このあとどうやって終わるのかな… どういうつじつまで夢から醒め、現実に帰るのか。どうやって継母と折り合いをつけ、生きる力を得て、現実に帰っていくのか…? だったが、
インコの王さまがしょぼい失敗をして世界が崩壊、すべてがくずれて現実に帰る、しょぼいラストだった。

幼児が語るほら話は唐突な、あっけない終わりかたをするもので、宮崎駿の語る夢も、あっけなく終わった。
この映画を観ている自分も、(たぶん、上映時間100分くらいをすぎた、上記シーンのあたりから)トイレに行きたくなり、映画への集中力が途切れてきていたので、
インコが失敗して、世界がくずれて夢から帰るとき、ああ、やっと終わったか… というかんじだった。


戦争が終わって、父と母、弟、家族みなで疎開先から東京に帰ることになる。
玄関先で家族から「眞人、いくぞー」と呼びかけられ、「はーい」と主人公が部屋を出る、あっさりとしたカットで、唐突に映画が終わる。

リアルとファンタジーの境目はそんなものだろうし、あれだけのファンタジーを描いた、生み出した子ども部屋はひっそりしずまりかえり、次の主を待つ。
夢を生み出すのはリアルであり、夢、ファンタジーこそが、人の生きる力である。

映画のエンディング、スタッフロールはとてもしずかで、全てのシーンが終わった以上、何の演出、何の飾りも無い。
歌がながれるのにあわせて、スタッフロールが延々と流れていくのみである。
スタジオジブリの往年のスタッフの名前が見え、(おそらく、宮崎駿の弟子であったり、後輩、仕事仲間であっただろう)協力会社、アニメスタジオの名前がズラッと出てくる。

スタッフロールの最後に出てくるのは、原作・脚本・監督 宮崎駿

騒がしくなく、しずかに映画がおわったのがとても良かった。


映画を観たあと、お医者さんへ、検診を受けにいった。
コンピュータのモニターに「年令:46歳」とあるのをみて、まだまだ若い!と思った。

君たちはどう生きるか を改めて問われる映画であったし、生きる力とは何か。宮崎監督からとんでもない傑作、とんでもない映画体験、感動をいただいた。
そんな土曜日の映画体験だった。